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スイスのアリア(ヘミングウェイの住んでいた地域)でキノコ狩り

スイスのアリア(ヘミングウェイの住んでいた地域)でキノコ狩り

 

 9〜12月はキノコ狩りのシーズン。満月の頃とか、雨がよく降った翌日の朝などはキノコ狩りに良いと言われています。スイス人は山歩きが好きで、素人でもキノコ狩りの詳しい方が結構います。

 そこで、スイス南部のモントルーで生まれ育った夫の友人にお願いして連れて行ってもらうことにしました。シーズン中はキノコ狩りにやってくる人が多いので朝早い方が良いとのこと。まだ辺りが真っ暗な6時にモントルー(Montreux)のあるカフェに集合。たっぷりのカフェオレとクロワッサンで腹ごしらえした後、車を十分ほど山方向に走らせ、アリア(Alliaz)という場所まで向かいます。

 子供の時からここの森で遊んでいる夫の友人にとってこの森はまるで庭。昨年多くキノコ発見した場所などを的確に覚えていてまずそこから当たっていきます。ほとんどのキノコは枯葉などで覆われている上、土の色と同化して見つけにくく、目がカチカチしてきます。

 眠気とともに早くもダウンしそうになる私をよそに、彼は早足でどんどん森の奥へ。ここでよく採れるのはピエ・ド・ムートン(羊の足)と呼ばれる種類。

 スーパーマーケットや市場で見たことがないのですが、天然キノコとしてとてもポピュラーだそう。キノコの傘の裏や脚の部分にモコモコとしたフサのようなものがたくさん付いているので、名前の由来はそこから来たのでしょう。日本ではシロカノシタ(白鹿の舌)と呼ばれているようです。

 フサのようなものはゴミを落としたり洗っているうちにどんどんポロポロと剥がれていきますが、無理に落とさなくても大丈夫。もちろん食べられます。ピエ・ド・ムートンは癖のない香りでほんのり甘い、万能キノコ。いろいろな料理に使えそうですが、まずは定番、リゾットやパスタに入れて楽しみましょう。他には軽く炒め、バター醤油で絡めておつまみ風にするのも美味しいです。フレッシュなキノコは水分が多いので、炒めるとどんどん小さくなっていきます。また、日が経つと苦味が出てくるので、できれば2、3日で食べきるのをお勧めします。

[参考メニュー]
Cpicon シロカノシタのソテー by 福井のおじじ

Cpicon シロカノシタのピリ辛炒め by 福井のおじじ

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アリア(Alliaz)

 ところでここアリアという場所は、アメリカ人作家ヘミングウェイ(1899-1961)が一時住んでいたことでも知られています。二度にわたる世界大戦という劇的な時代を生きたヘミングウェイ。1918年、19歳の時に赤十字隊員として第一次世界大戦下のイタリア戦線に参加します。

 自身の怪我や仲間たちの死を通して、自己の存在意義や戦争による人間の不条理性を強く問うことになります。こうした青春時代の経験は、強靭に生き抜こうとするストイックな倫理観を生み、それが作品の中に垣間見ることができます。

 その頃描かれた「武器よさらば」(1929)に登場する主人公フレデリック中佐とその舞台となるスイスの山中は、ここアリアではないかと思われます。温泉が出る場所もあり、静かに地元の人々に愛されているアリア周辺は戦時中のヘミングウェイにとっても安らぎを与える場所になっていたのでしょう。

 少し足を伸ばせばナルシスの花で有名な群生地があり、春には遠くからわざわざ見にくる方が後を絶ちません。少しモントルー方面に降りるとロシア作曲家ストラビンスキー(1882-1971)が住んでいた家も。その地域はクラロン(Clarens)という場所ですが、二人の芸術家はひょっとしたらご近所さんでお付き合いがあったかもしれません。

 同年代に生き抜いたストラビンスキーの作品も戦争の影響を多く受けています。戦後は長い間キューバに移り住んだヘミングウェイ、その後は飛行機事故に遭い、後遺症に悩んで最後は自殺してしまうという運命で幕を閉じますが、若き頃のスイスでの山中生活は(過酷な現実に対しての)理想郷としていつまでも心に宿っていたと思います。

 ヘミングウェイもこの森を散歩していたのでしょうか。彼の生きた時代とその作品に思いをめぐらせつつ、早朝のキノコ狩りを楽しみました。

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