性別や年齢に関係なくブームとなっている「観光登山」。日本生産性本部のレジャー白書によると、2011年以降の年間平均登山者数は約800万人。中高年が中心となり、3K(きつい・汚い・厳しい)と呼ばれていた時代は何処へやら、今では20代~30代の女性「山ガール」が、オシャレな「山スカート」を履いて気軽に山登りを楽しむ時代に。
山ガールに対抗して、山ボーイと言う言葉もあるようですが、彼らのような若い世代がスマホで発信する山情報は、今では特定の山を「ブランド化」する影響力まで生まれているのだとか。ちなみに彼らによってブランド化される山は、「綺麗」な山荘がある山が中心。
実力や体力を少しづつ付け、誰も登った事のないような難度の高い山に挑戦していく、と言った本来の地味な登山に対する考え方は、若い世代には無い事が伺えます。
ところで、登山やハイキングをしている途中、或いは、山の映像などで沢山の石がピラミッド状に積み重ねられた塔に気が付いた事がありますか?
大自然の中に突然現れるこの石の塔は、登山用語で「ケルン」と呼ばれ、「道しるべ」として利用されている塔。ケルンは元々アイルランド語で、石で組み上げた塚という意味なのだそうです。
しかし道標のはずのケルンの中には、災難現場などでは慰霊碑、願掛けや登山記念として一般登山客が故意に積んだ物、そして最近ではアートとしての石積みなど、本来の目的以外でのケルンを数多く見かけます。
観光客の「石積み」による環境破壊
何気なくやっているこの石積みですが、実は環境破壊の原因になっている事を知っていましたか?今回は、カリブ海に浮かぶ小さな島バミューダー島の被害例を紹介しましょう。
美しい自然が手つかずのまま残されているバミューダー島。この島には、他の場所で見る事の出来ない、土地固有の植物や動物が沢山生息しています。その代表的な生物が「バミューダートカゲ」。バミューダー島で最大となる野生動物保護区「スピッタルポンド自然保護区」のみに生息し、体調が約9センチほどの小さなトカゲ。
バミューダー島では、温暖化の影響で頻繁に発生する巨大ハリケーンによって浸食被害が拡大していると同時に、石積みの為に岩盤となる平らな石灰石を掘り出す観光客のせいで、岩と岩の間で生活するバミューダートカゲの住処が、人間の手によっても「破壊」されていると言うのです。
また石積みは、国際自然保護連合(IUCN)によると既に絶滅寸前種に登録されているバミューダトカゲだけでなく、貴重な植物や海鳥の巣作りにも深刻な被害を与えているとも言います。
バミューダー・ナショナル・トラストは、観光客による「石積み」と言う破壊行為について、アメリカ合衆国政府に土地を取られてしまったアメリカ先住民のシアトル酋長の言葉を引用し、以下の様にコメントしています。
「記憶だけを持って帰り、足跡だけを残してください。」
自然は何千年の時を経て進化します。私たちには、この素晴らしい自然を楽しむと同時に、自然の進化を邪魔する事無く、この美しい自然を保護する配慮を決して忘れてはならない事を再確認させてくれます。
[参考記事]
「動物たちの防寒対策。猿は温泉、インド象は靴下」
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