<同じ漢字圏でも全く違う意味の漢字>
日本の文字の基本である漢字は、ご承知の通り中国から伝来した文字です。広大な中国や中華圏、朝鮮半島や日本で現在も使われている漢字は、
数千年の歴史を経て現在も多くの人達に利用されている文字です。
また、漢字は各国によって微妙に変化や進化を遂げています。例えばそれぞれの地域で使われる漢字と使われない漢字や、同じ漢字なのに意味が全く違う、元の字体が簡略化されているなどです。
<深淵なる漢字の歴史>
漢字の起源は紀元前の殷の時代に遡ると言われています。紀元前1200年よりも前の時代という事ですから、深淵なる歴史を有しています。
現存する最古の漢字は、占いの内容を書くために作られたと言われていますが、それは甲骨文字と呼ばれる象形文字です。現在われわれが毎日使っている漢字を見ていても、象形文字だったんだなーと感じる文字を多々発見できると思います。
このような起源がある漢字ですが、同じ漢字圏でもそれぞれの国や地域で、変化し進化した形で漢字が用いられています。
日本では漢字を元に作られている「ひらがな」「カタカナ」ができて、漢字と仮名を併用して日常的に文字でコミュニケーションを図っています。
台湾では、中国と同様に漢字が使われていますが、「繁体字」と言って画数の多い難しい漢字を使っています。
一方中国では、「簡体字」と言って、元の漢字を省略して簡略化した漢字が使われています。
略されてしまい分かりにくい簡体字
さて、お話を中国の漢字と日本の漢字に戻します。中国で現在用いられている漢字は「簡体字」と言って、中華人民共和国になってから作られて、1964年、簡化字総表にまとめられた漢字です。つまり、簡体字は元々の複雑な「繁体字」が略されて、簡単に書けるように改良された漢字です。ちなみに香港や台湾では繁体字が使われているのですが、簡体字を見るとムカつくようです(笑)例えば繁体字の「飛」の文字が簡体字になると「飞」になるのですが、「こんな文字では飛ぶことがイメージできないよ」みたいなバカにしたような感じになるそうです。
日本の漢字は「新字体」と言って、厳密には第二次世界大戦後に作られた「当用漢字字体表」に掲げられた漢字です。つまり、アメリカの占領下において複雑な「旧字体」を、簡略化された「新字体」に変えたわけです。「旧字体」は先ほど書いた繁体字に近い文字です。
こうみると、両国で用いられている現在の漢字は比較的新しい時代にまとめられている事が分かります。
中国に脚を運ぶと、漢字が至る所で目に飛び込んできますから、中国語が分からなくてもどこか親近感や安心感があります。しかし、よく見ると簡体字なので、日本語のどの漢字にあたるのかがわからない文字にも多数遭遇します。略されてしまった簡体字は、とても奇妙な文字に見えてしまいます。
<日本から輸出された漢字>
よく言われていることですが、「中華人民共和国」の「人民」と「共和国」は日本で作られた漢字で、中国はこれを国名に採用しています。ちょうど、明治維新の頃、海外から色々な文化が入ってきますが、当てはまる漢字が見当たりません。そこで、福沢諭吉さんなどが漢字を組み合わせて造語を作り上げたのです。それを中国が採用したという訳です。その他にも「銀行」「情報」「自由」「経済」なども日本から伝わった造語として、中国で使われています。
<三拍子揃って日中で同じ漢字>
この様に、同じ漢字をベースにしながらも、現代では違う文字体系を持つ日本と中国ですが、同じ漢字も多数存在しています。例えば、「愛」。これは略されておらず、日本の漢字の「愛」と全く同じです。この「愛」という漢字はとても象徴的な漢字です。
日本語の「愛」と中国語の「愛」は、字体も同じで、意味も同じで、実は発音も同じなんです。同じ漢字国なのですから、当然と言えば当然なのですが、三拍子揃って同じままで、誰でも理解できる文字として、非常に象徴的だと思います。しかし、日本と中国は愛で結ばれていないのが皮肉ですが(笑)
<全く日中で違う意味の漢字>
「愛」の様な漢字がある一方で、同じ漢字なのに日中ではまるで違う意味の漢字もあります。例えば、「手紙」です。日本語の「手紙」は、英語で言うLetter。郵便で送る文書の事を言いますよね。日本語の「手紙」は郵便物ですが、中国語の「手紙」は全く違います。中国語の「手紙」は、英語で言うToilet Paper。つまりトイレで使うトイレットペーパーの意味なんです。同じ単純な二文字の漢字なのに、これだけ意味が違います。
中国で中国の方と仲良しになり、別れ際に帰国したらお「手紙」を送りますね、という事を伝えたくて、この「手紙」という漢字を用いて相手に伝えると、必ず笑われます。帰国したらトイレットペーパーを送りますねと言っているのですから当然です(笑)
最近はインターネットの普及に伴い、「手紙」を書いて送るという行為は急激に減少しているとはいえ、「愛」とは全く違う意味での象徴的な漢字ですので、雑学的に知って頂くと面白い漢字です。ちなみに日本語の「手紙」の事は、中国語では「信」と書きます。
元は同じ漢字を使う両国ですから、多くの漢字が同じ意味で使われており、「手紙」の様な例が多い訳ではありませんが、こんな例もあります。
愛人:
日本語「不倫関係の相手」、中国語「配偶者」
汽車:
日本語「蒸気機関車」、中国語「自動車」
可憐:
日本語「かわいらしい」、中国語「可哀そう」
東西:
日本語「東西」、中国語「物」
*東西南北としての東と西の意味も当然あります。
湯:
日本語「お湯」、中国語「スープ」
結束:
日本語「団結する事」、中国語「終わる事」
合同:
日本語「一つにまとまる事」、中国語「契約」
清楚:
日本語「清らかさ」、中国語「はっきりしている」
告訴:
日本語「犯罪の申告」、中国語「伝える」
走:
日本語「走る」、中国語「歩く」
知っていると雑学としてちょっと楽しいですよ。
同じ漢字でも、意味が全く違うとびっくりしてしまいますよね。しかし、殆どの漢字が日中で同じ意味として使われていますので、言葉が話せなくても、紙に漢字を書いたり、スマホで示したりすると、コミュニケートする事が可能です。でも、ここでご紹介した全く違う意味の漢字も、知っておくと有意義です。
以上、各国によって異なる漢字の変化や進化についてお伝えしましたが、お分かりいただけたでしょうか。
繁体字の愛は簡体字の爱へ省略され、「心」がありません。