オーストラリアの片田舎で暮らしていたある日、一緒に住んでいたフランス人に突然、「フランス人は毎日お風呂に入らないって噂、嘘だから!」と宣言されたことがあります。
そんな噂を聞いたこともなかった私は、彼女の突然の宣言に驚き、「そ、そうなんだぁ」と、あいまいな返事をしましたが、後に色んな人に話を聞いたり、ネットで調べたりしてみると、確かにそういう噂はあります。
彼女の「お風呂入ってます宣言」が忘れられなかった私は、「噂はあくまでも噂なのね」と、そんな噂を立てられているフランス人を気の毒に思いつつ、最近までそんなことはすっかり忘れていました。
それから数年後、縁あってフランスに移住をしたある日、ふと彼女のお風呂宣言を思い出し、周囲のフランス人の生活習慣に気を払ってみると、多くの(特に若い)フランス人は確かに、ほぼ毎日お風呂に入っています。
でもそれは日本の感覚で言う「お風呂に入る」ではないことに気がついたのです。
日本ではお風呂に入る、といったら、髪も顔も体も洗って、あまつさえ湯船にまでたっぷり浸かる、という感覚があります。しかしここフランスでは湯船のない家庭も多く、「お風呂に入る」=「シャワーを浴びる」ということです。
湯船(バスタブ)のある家庭であっても、洗い場がなく、バスタブのすぐ上にシャワーが取り付けられているなど、毎日湯船につかるには、あまり合理的でないデザインになっています。
湯船につかるのが大好き!というフランス人にも会ったことがありますが、湯船には汗を流す目的で入るのではなく、リラックスするために、月に何回か「わざわざ」湯船を準備してバスタイムを楽しむ、という感覚のようで、毎日の生活に取り入れている方はめったにいません。
ただ、フランスはお湯の温度がやや低いところも多く、バスタブには追い炊き機能もないことから、熱々の湯船につかるのが大好きなお風呂大国から来た私は、毎回かなり物足りなさを感じています。
古いアパートだと、未だにシャワーや給湯設備自体もタンク式のところがまだ多く、あまり長居するとお湯がなくなり途中でお水に変わってしまう、というところも。
また、フランスでは一年を通して空気がかなり乾燥しているため、日本のように湿気や汗で、一日髪や体を洗わないとかなり油やにおいが気になる、という問題はあまり発生しません。
ヨーロッパの水はかなりミネラルが豊富な「硬水」のため、水に含まれる石灰分(カルシウム塩・マグネシウム塩など)の影響で、毎日髪や体をしっかり洗うと、かなり乾燥して、肌や髪がパサパサになってしまうことも。
こういった事情から、シャンプーは一日ないし二日おき、基本的には朝にシャワーでさっと流すのみという人が多いように感じます。洗顔でさえ、専用のふき取り式化粧水をコットンにつけて、さっとひと拭き、というのが主流。洗顔フォームをつけて毎朝晩ばしゃばしゃと顔を洗う人もあまりいません。日本人の多くは「本当にそれで洗えてるの?」と疑問に思ってしまうところでしょうが、彼らの感覚ではこのくらいでも「毎日洗っているもん!」というところでしょう。
文化による生活習慣の違いは驚くことも多いですが、一度その歴史を紐解いてみると、理解への一歩を早めてくれます。何はともあれ、私の周りのフランス人(特に若い女性)は、「フランス人は毎日シャワー浴びないんでしょ?」という噂にちょっと傷ついている模様。フランス人との会話でお風呂の話題が出たときには、オブラートで包んで話をした方が良さそうですね!
[フランス記事]
「フランスと日本の商品を比較してみた。フランスの歯ブラシはデカい」