フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2017年の大統領選において、公約の一つに
「18歳以上の男女を対象に約一か月の兵役を課す」
ということを挙げていました。
そして先日、1月19日、海軍基地があるフランス南部の都市トゥーロンで行った、軍事関係者向けの年頭演説の中で、2001年に廃止された徴兵制度を復活させることを検討しているとのコメントを改めて発表しました。
テロに備え
2015年のパリ及び近郊で起きた同時多発テロ。以来、次はいつどこでテロが起きるのか、フランス人は心の底でピリピリしているのは事実です。そのテロの恐怖に少しでも打ち勝つために、フランス国民の一人一人が、少しずつでも戦力として協力しようという趣旨のこの徴兵制度。
マクロンが挙げている概要は、兵役に参加するのは、18歳から21歳の男女、兵役期間は一か月とされています。ちなみに、現時点(2018年1月時点)において、まだ徴兵制度復活がはっきりと確定したわけではありません。先日のトゥーロンでのスピーチでの発表は、【私は大統領選の公約のひとつである徴兵制度復活について忘れたわけではありませんよ】程度のものだと、私の周りのフランス人は受け取っているようです。我が家のフランス人も、「そんなの実現しないに決まっている」とさらりと言い放っていました。正直、日本の一部メディアで騒がれたほど、(確定していない今は)フランス人達は関心を示していません。
徴兵制度復活における裏側事情
フランス国民全員が一度は参加してテロリスト対策に備える兵役制度、というと聞こえは良いのですが、実際問題、軍事訓練経験ゼロの若者が、たった一か月の訓練で一体何ができるのでしょうか。この一か月という期間は、軍事訓練というより、むしろフランスの若者のテロリストへの危機意識を育てるためのものだとも言われています。
テロリストもしくはその疑惑でマークされている者の中には、フランスで生まれ育ったにも関わらず、何かのきっかけで過激派組織と接点を持ち、洗脳されてテロリスト化したといわれている若者たちがいます。
この辺りの問題は、フランスでも「Le Ciel Attendra」(英語タイトル Heaven will wait)というタイトルで映画化され話題を呼びました。私も観ましたが、インターネットをきっかけに普通の少女が簡単に罠にはまり、洗脳され過激派に惹かれていく姿に、親として恐怖すら覚えました。こういった若者を洗脳から守る意味では、もしかしたらたった一か月の軍事訓練も何かしらの効果はあるのかもしれません。
徴兵制度に参加する若者達全員を収容するための施設建設には、多額の費用が掛かるといわれており、金銭面を始め、その実現には難しい問題が立ちはだかっています。ゆえにこの徴兵制度復活に関しては、国民からは疑問視される声が相次いでいます。
徴兵制度に代わる「市民訓練コース」の検討?
一部フランスメディアの情報によると、現実的に実現の難しい徴兵制度の代わりに、「市民訓練コース」の採用も検討されているようです。この市民訓練コースは、10歳から16歳の若者を対象とした国民義務のひとつで、毎年一週間の同コースの受講が義務化されるというもの。
コースは3段階によって構成され、学校施設内で行われる予定で、第一段階はセキュリティや防衛、救助などについて学び、二段階目は日常生活に支障のある障害者施設に行きボランティア活動、そして最後に市民訓練コースを修了したという証書を貰うというもの。その証書により、以後の市民活動に気軽に参加できるようになるだけではなく、例えば、車の免許取得の際も補助金が出るということを検討しているようです。
なにはともあれ、徴兵制度にせよ、市民訓練コースにせよ、まだはっきりとした決断が政府から発表されていない現状では、最終的にどんな義務制度に収まるのか、フランス国民は静かに見守っているようです。
[参考記事]
「フランスの治安はテロ以来どのように変化したのか」