世界の謎発見

座席指定なのに他の誰かが座っている中国の鉄道と飛行機

 

 中国で仕事をしていた筆者は、あっちこっちの街に飛び回って来ました。飛行機、鉄道、バスなどを使って、数多くの都市に出張しました。出張というのは、仕事の中身は別にして、馴染みの無い街に脚を運べるという楽しさもありますが、移動や自宅以外での宿泊などで、疲れるものです。単なる出張というだけで疲れるものですが、中国内での出張というのは本当に疲れます。

 その理由は大きく分けて二つあります。一つは交通機関が時間通りに運行してくれない事。もう一つは、乗り物の座席にあります。

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むしろ秒単位で運行する日本の交通が神業

 乗り物が予定されている時刻表通りに運行されないのは中国に限った事ではありません。むしろ、秒単位で運行できる日本の鉄道等の技術やシステムが超人的であって、律儀で秩序を重んじる国民性の日本人は少しの遅延に敏感になりがちです。そこが日本の良い国民性でもあるのですが。

 しかしながら、日本以外の国では、交通機関が遅延する事に、日本人程には神経質ではありません。生真面目で秩序だった日本の尺度が、むしろグローバルスタンダートから見ると厳格なのだと筆者は思っています。ゆったりのんびり生きようよ!焦ったって仕方ないじゃないのという緩い人生観が、どうも世界の国々には多い気がしてなりません。

 ですが、ビジネスマンとして遠距離移動をする仕事をしていると、アポイントがあるのでどうしてもナーバスになります。筆者も中国で出張をし始めた当初めはそうでしたが、郷に入らば郷に従えで、焦っても仕方が無いと思う様になりました。相手先に遅延を告げたり、スケジュール変更したりと、それなりに後始末は必要になるので、気疲れしない訳ではありませんが、仕方が無い事はどうする事もできません。とはいえ、やっぱり疲れる要因の一つにはどうしてもなってしまいます。

窓口購入が基本

 高速鉄道が運行しだして、時代と共に鉄道は進化していますし、国営航空会社は分割して一応民営化してサービスは少しずつ向上していますが、まだまだ鉄道も航空も顧客サービスの満足度は低いのが現状です。都市部の商業サービスは飛躍的に向上していますが、交通機関は中国共産党が運営している臭いがぷんぷんしています。

 時間の確実性を高める為と、自らの移動快適性を得る為に、鉄道や飛行機で長距離移動する時は、必ず事前に便を決めて指定席を予約発券します。鉄道も航空券も事前予約は可能ですが、基本は窓口で本人が行うのが原則です。航空券の場合は大都市内に航空会社のカウンターがある場合がありますが、鉄道の場合は発駅に行って窓口に並んで事前予約しなければなりません。

 JRのみどりの窓口の場合は、全国どの路線でも予約可能ですが、中国の場合は乗車する駅で、その駅発の切符しか予約も購入もできない仕組みです。このITの時代に、極めて原始的な予約発券システムを継続しています。ですから、とても不便なんです。

 その為、旅行会社が代行してインターネットでも店頭でも予約をしてくれるのですが、顧客受付をインターネットで行っているだけで、実際は旅行会社が代理で、駅まで購入しに行ってくれているという仕組みは変わりません。

勝手に人の座席に座っている人にも訳があるのです

 予約ができたので、その当日に予約した便に乗るべく出かけます。鉄道でも飛行機でも、乗車搭乗してみると、お客さんたちが何やら、ざわめいているのが普通です。何かと言うと、すんなりと指定券の座席に座っていない人たちがうごめいているのです。知らない人たちどうしが何やら会話して、右往左往している光景が当たり前の様に繰り広げられています。さっさと座ってくれればいいのにと思うのですが、通路上で何やらやりとりが暫し続きます。

 また、自分の予約座席に辿り着くと、往々にして誰かが平気で座っていることがあります。あれ?私が間違えているの?指定券をよく見ると間違ってはいません。とすると、座っている人が間違えているのか、オーバーブッキングされているのか。

「あのー、ここは私の席なんですが。。。」と尋ねると、決まってこう逆質問に会います。「貴方は一人ですか?」と。

 一人で出張する事が多かったので、「ええ、しかし、どういう意味ですか?」と尋ねると、横の数名を示しながら「私達家族なので、貴方は一人なら私の座席と変わって下さい。あちらの席です」と、本来のその人の座席を教えられます。

「は?」

 これが、私が最初にこの現象に遭遇した時のやりとりです。

 おかしいでしょ!私の指定席なんですから、勝手に座っていて、座席交換してくれというのは。最初はそう思いましたが、一人なんですから、どの席に座っても良いので、渋々了承して座席を交換しました。

 実はこの現象が、いつでもどこでも、指定席の乗り物に乗ると行われている事に次第に気がつきました。それで理由がわかって来たのです。つまり、それは座席を指定予約する時に、数名での予約でも、隣どうしで予約してくれないという事です。どういう訳だかわかりませんが、ランダムに座席を指定している仕組みになっているのです。

 日本ならば、家族4人で旅行する場合など、同じボックス席で4人予約をしてくれますが、中国では家族4人の旅行であっても、簡単に言うとバラバラに予約発券されてしまいます。つまり、席を確保する事を予約しているだけで、希望の座席を予約してくれる仕組みではないのです。

 ですから、列車や飛行機に乗って、あっちこっちで話し合っているのは、ばらばらの座席で予約されている数名の旅行者同士が、近くに座りたくて座席の交換をしているのです。この事が分かって来たのです。これも一党独裁政治の結果と言えると思います。鉄道は国営独占企業、航空は民営化されたとはいえ元々国営企業。自分達で決めたルールで運用して、不都合があっても顧客本位に改め様とはしません。自分たちが全てなのです。

 そんな仕組みに翻弄された一般国民は、それぞれの交通機関の現場で、みんなが同じ思いで座席を交換しあいながら、楽しい旅行になるように努めているのです。最初の頃は、あっちこっちの通路で右往左往しているので、中国の人達はおかしいのではないかといぶかって落ち着くのを待っていましたが、この事実を知ってからは、進んで座席を譲る様になりました。

 中国という共産主義国家では、一般国民は多くの場所で、行政サービスの不作為に対して耐えながら、知らない人たちどうしが譲り合って、楽しく暮らす知恵を働かせているのです。中国国内での移動で、交通機関を利用される場合は、どうか彼らの行動を暖かく見守り、もしも一人だったら複数の旅行者に対しては、気持ちよく座席を譲ってあげて下さい。彼らも中国共産党の犠牲者なのですから。

[参考記事]
「中国国民は本当に反日なのか。中国在住10年の著者から見た中国」

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