結婚25年。未だに理解し合えないこと、それは銃の所持。米国人の夫とアメリカに住み早25年。習慣や考え方・価値観の違いに驚き、戸惑いながらも、「郷に入ったら郷に従え」という先人の教えに従い、どうにかやり過ごしてきました。でも、ひとつだけ、どうしても理解し合えない事があります。それは「自分の身は自分で守れ。そのためには銃を所持してもいい」という社会。
そして、困った事にうちの夫はガンマニアなんです。夫曰く、彼はただのガンマニアではなく、サバイバーリストだそうで、昨今ではプリッパーズと呼ぶらしいですが、これについては、後程、詳しくお話しますが、私と夫はこの話をすると、どこまで行っても平行線。育った環境、文化、歴史、宗教の違う二人ですから、考えの相違があって当たり前でしょう。でも、こう銃による乱射事件が続くとやっぱり黙ってはいられなくなります。
気が付くと夫はガンマニアに!
夫のガン収集が始まったのは、10年前ぐらいからでしょうか。初めて銃を購入した時は、「家族を守るため、自衛のためだ」と言っていた夫。今では、ライフル、ショットガン、ハンドガンなど、いつの間にやら増え続け、現在では14丁にものぼります。
自衛のための銃ならハンドガン1丁で充分だと反対しましたが、夫は聞く耳持たず。そのうち、ハンティングに行くのだとライフルやら、いろいろ揃え始めました。きっと彼のような人をガンマニアと呼ぶのでしょうね。
子供がまだ小学生ぐらいの時に、夫がガンレンジ(射撃場)に連れて行くと言い出し大ゲンカになり、なんとかその時は阻止したものの、14才の時に息子はシューティングデビュー。18才の誕生日には夫からライフルをプレゼントされています。息子は、夫に誘われなければ、自ら射撃場に足を運ぶこともありませんが、やはり家に護身用の銃を1丁置いています。幸い、若い世代は夫のようにガンに執着する人は少ないようです。
アメリカでは簡単に銃を購入できる!
アメリカの銃保有率は70年代にピークを迎え、2世帯に1世帯が銃を保有していましたが、現在では3世帯に1世帯に減少しています。それでも、銃による事件は後を絶ちません。
ここアメリカでは、銃を手に入れることは簡単です。州によって多少ルールは異なりますが、私の住んでいる州では、18才からライフルが、21才からショットガンやハンドガンが、専門店やアウトドア用品を扱う店などで入手できます。それも簡単なバックグランドチェックを済まし登録さえすれば、何丁でも手に入れることが出来るというから驚きです。
それもみな、アメリカ憲法にある
「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」
という法のお陰なんです。
アメリカに根付く「殺られる前に殺れ」という正当防衛の考え
日本人には理解しがたいアメリカの銃社会。この違いはやはりバックグランド(武力の歴史)からくるものでしょうが、遡れば、DNAに刷り込まれた農耕民族と狩猟民族の違いというのもあるかもしれません。
また、お馴染みの西部劇では、悪者ガンマンと正義の味方ガンマンが対決します。そんな開拓時代のしきたりが、今日まで引き継がれて、自己防衛という隠れ蓑の元で、銃の所持が野放しに容認されてきました。
未だに12進法のインチを使用しているこの国では、既存のものを無くすことは難しいでしょう。あくまでも私の印象ですが、アメリカ人は新しいものを受け入れるのは得意ですが、古いものを切り捨てることが苦手なような気がします。
世界滅亡に備える人々・プリッパーズ
さて、冒頭で触れたサバイバーリスト/プリッパーズですが、最近になって知ったのですが、夫は“なんちゃって”プリッパーズです。プリッパーズとは、天災、人災、戦争などなんらかの原因によって、ライフラインが途絶えたり、政府が機能しなくなった時を想定し、サバイバルに必要なものやスキルを準備する人の事を言います。本格的な人は、シェルターを作り、自家農園で自給自足を目指し、そして武装までします。
このプリッパーズの様子は、アメリカでは、『ナショナル ジオグラフィック』のTVシリーズ、その名もずばり「プリッパーズ~世界滅亡に備える人達~」で紹介されて世間に広まりあした。
銃はプリッパーズのマスト・アイテム
夫はここ数年、万が一に備えて、水や食料、サバイバルグッズを備えるようになりました。東日本大震災後、日本人である私達も万が一の時に備える人は多くなったかと思います。ここアメリカ西海岸にも大地震が来るとずっと言われてきました。だから備えは必要だと、そこは同意しています。しかし、夫の場合、ちょっと備えの域を超えているのです。たとえば、非常食を知人の森の中に隠したり、自衛のための銃やマスクや防弾チョッキなどを揃えたりしています。
夫は「世界の秩序が失われた時、武器を多く持っていたほうが有利。だから銃は多い方が良いのだ」と言うのです。いかにも軍人上がりの夫の言いそうなことですが、アメリカ的な「自分の身は自分で守れ」という考え方に基づいているのでしょう。しかし、殺伐とした考えで、なんだか悲しいですね。
アメリカの銃社会に願うこと
2012年、児童20人、教職員6人の犠牲者を出したコネチカット州の小学校銃乱射事件の犯人の母親は、このプリッパーズであったそうです。犯人は、その母親から盗んだ銃で犯行に及んだのでした。アメリカ史上、最悪の数の死傷者を出したラスベガス銃乱射事件では、オートマチックに改造したガンでが使用されました。
アメリカのように既に銃が蔓延してしまっている社会で銃を廃絶することは難しいでしょう。しかし、せめて大量殺りくに使用する連射式の改造ガンの規制や、ガンを所持出来る人に厳しい条件を与えるなど、少しでもガンを規制する方向に向かってくれないかと思うのです。