中国の標準語は当然中国語です。中国語の標準語は「普通話」と呼ばれています。中国はとても広大な国家で、多くの民族が存在し、歴史も文化も風習も様々です。
民族が違えば言葉が違うのは当然の事で、多民族国家である中国の国民どうしが意思疎通を図る為には、必然的に共通の言語が必要になります。
そこで、中国全土で共通に会話できる言語として成立したのが「普通話」です。
<漢字という共通のプラットフォームなのに違う発音>
そもそも中国語は文字として「漢字」で表記されています。漢字は世界で最も古い文字体系であり、最も文字数が多い文字体系であると言われています。その起源は紀元前3300年頃と言われており、悠久の歴史を有する中国ならではだと言えます。現代に至るまで、漢字を文字表記として意思疎通を図って来ました。
漢字は朝鮮や我が国にも伝来し、中国だけではなく、アジア一帯に基本文字として普及をしている訳です。しかし、共通の文字である漢字の表記も、発音には違いがあります。同じ漢字であっても、中国と日本では発音に違いもあれば、共通の発音もあります。
この様に、共通のプラットフォームである漢字であっても、声に発する発音には違いが存在しています。中国の広大な地域、そしてアジア一帯に普及した漢字でありながら、発音に違いが表れ、言語としても違いを有しながら発展を遂げて現在に至っています。言葉というのは、地域性や歴史の変遷の中で変化しているという事がおわかりになると思います。
<広大な中国大陸で言葉は違って当たり前>
日本の様な小さな島国でさえ、地域によって言葉に違いがあります。沖縄の言葉と、津軽地域の言葉では全く違う言語に聞こえてしまいます。狭い日本でもそうなのですから、広大な中国で言葉に違いがあるのは当たり前の事です。
香港の人達が使っている言語は広東語が基本です。広東語は香港が接している広東省の現地語です。又、上海の人達にとっての現地語は上海の地元言葉で、「普通語」とも広東語とも全く違う言語です。
代表的な広東地域や上海を比較しても分かる事ですから、中国共産党が占領した新疆ウイグル自治区やチベット地域では、同様に歴史的に違う言語が存在しているだろうと容易に想像できます。
<戦略的に作られた全国共通言語>
日本語の標準語は明治維新後に国家戦略として作られました。薩摩藩の人達と、長州藩の人達が会話するだけでも、言葉が聞き取れなくて大変だったことでしょう。江戸時代に日本の首都は江戸になり、その後明治になって東京に名前が変わっても、元々の江戸の地が首都になって現在に至っています。
それでは江戸の言葉が標準語になったのでしょうか?ネイティブな江戸の人達、つまり江戸っ子のベランメイ調の言葉が標準語にはなっていません。様々な観点から検討が為されて現在の標準語と言われる言葉が成立して行き、学校教育の結果として定着したものです。
中国の「普通語」も同様の経過をたどっている戦略言語です。中華人民共和国の時代になって作り上げられた全国共通言語なんです。
<個性を大事にする国民性>
筆者は言語学者でも歴史学者でも無いので、正確な成立過程について説明することはできませんが、「普通語」は中国東北地方の言葉を原型としていると多くの中国の友人から聞いて来ました。
筆者は中国東北地方に住んだ経験もあるのですが、確かに東北地方の人達の話す言葉はとても綺麗で忠実な「普通語」に聞こえます。一方、北京の人達の話す中国語はとても不鮮明で、聞き取りにくい発音をします。一般的に中国語は反り舌音という発音をすることがあるのですが、日本人にとってこの反り舌音の発音はやっかいな発音方法です。舌を口の中で反らせたままで発音する発声方法なのですが、発声するのも聞きとるのも難しい発声方法と言えます。北京の人達はこの反り舌音を極端な反り舌で発音するのです。口ごもっている様な音で発声するので、極めて聞きとりにくい発音です。これが一般的に言う北京語であって、「普通話」の発音とは違います。
日本でもNHKのアナウンサーが話す言葉が最も忠実な標準語と言われる様に、中央電視台のアナウンサーが話す言葉が最も忠実な「普通話」と言われます。彼らが話す「普通話」は明らかに北京語の発音の様な反り舌音を多用しません。極めて明瞭で綺麗な発音をしています。その発音は東北地方の人達が話す発音に極めて近いと筆者も感じます。
ある友人は、黒竜江省のハルピンの言葉が「普通話」の原型だと話してくれました。再度申し上げると、筆者は学者ではないので真実か否かの判断は出来かねますが、感覚としては東北地方の言葉が原型になっているのは間違いないと確信しています。東北地方の人達の言葉はとても綺麗です。
<まとめ>
中国では広大な国土を二分して北方と南方という分け方をします。日本が東西で東日本と西日本と言う分類と同様ですが、中国では東西ではなく南北で分類します。その分類では北京は北方に属するので、「普通話」が大きく分けて北方の言葉を原型としていると言う意味に立てば、北京語も原型の一つと言えるかもしれませんが、筆者が現地に住んでいた感覚では、北方という大きな分類ではなく、原型はあくまでも東北地方の言葉だと確信しているのです。北京語は江戸っこの話す江戸言葉(弁)とご理解頂くと分かり易いと思います。