中東アラブ首長国連邦(UAE)の一都市であるドバイは、近年、世界中の富裕層が集結する都市としてその地位を確立しつつある。高層ビル群、世界有数のラグジュアリーホテル、高級車が走る道路……。だが、ドバイの魅力は見た目の豪華さだけではない。税制、生活の自由度、投資環境、国家戦略――それらが複雑に絡み合い、世界中の金持ちがこぞって移住する「富裕層パラダイス」が出来上がっている。本稿では、ドバイに富裕層が集まる背景と、その金持ち優遇政策の実態に迫る。
税金がない? 世界でも有数の「タックスヘイブン」
まず、ドバイに富裕層が集まる最大の理由のひとつが税制の優遇だ。ドバイを含むUAEでは、個人所得税がゼロ。これは日本や欧米といった先進国と比べると破格の条件である。たとえば、日本の所得税は累進課税で最大45%、住民税も10%ほど課される。一方、ドバイでは年収数千万~数億円を稼いでも税務署に申告する必要すらない。
法人税についても、従来は完全な非課税であったが、2023年から一部導入されたものの、依然として中小企業やスタートアップには実質無課税に近い環境が残っている。さらに、キャピタルゲイン税、相続税、贈与税もなしという状況は、資産を守りたい富裕層にとって理想的な環境だ。
国が後押しする「ゴールデンビザ」
ドバイは、富裕層に向けて**長期滞在ビザ(通称ゴールデンビザ)**の提供を強化している。このビザは、一定額の不動産投資や事業投資を行うことで、10年間の居住権が与えられるもので、他国のような厳しい永住権審査とは一線を画す。
特に、2020年以降はゴールデンビザの対象が拡大され、富裕層に限らず、優秀な専門家、起業家、芸術家、科学者なども含まれるようになったが、その中心にいるのはやはり多額の資産を保有する超富裕層たちだ。
この制度により、彼らはドバイに住みながら、資産をほとんど課税されずに維持・増殖させることが可能となっている。
インフラと治安の「異常なまでの快適さ」
富裕層が都市に求めるもののひとつは「快適さ」と「安全」である。ドバイはその両方を高水準で提供している。
まず、インフラ整備は世界最高水準。世界最長の無人運転メトロ、スムーズな道路網、空港の利便性、高速インターネット環境、高級ショッピングモールの集積など、富裕層にとって必要なあらゆるサービスが揃っている。
さらに、治安も極めて良好だ。UAEは厳格な法律と高度な監視システムにより、犯罪発生率は非常に低く、女性が一人で深夜に歩けるほど安全だとされる。富裕層が高価な資産を保有し、自由に生活するには最適の環境と言える。
高級不動産市場の爆発的成長
ドバイの不動産市場は、外国人投資家に対して極めて開かれており、所有権を完全に持つことができるエリア(フリーホールド)も数多い。これは、他の中東諸国ではあまり見られない特徴である。
近年は、特にロシア、中国、インド、欧州からの高額不動産購入が急増しており、ドバイマリーナ、パーム・ジュメイラ、ダウンタウン・ドバイといった人気エリアでは、数千万~数億円の物件が飛ぶように売れている。
これに伴い、不動産価格も上昇。だが、それでもまだロンドンやニューヨーク、東京に比べるとコストパフォーマンスが高く、「割安感」すらあることから、さらに投資熱が高まっている。
富裕層同士のネットワーキングができる都市
ドバイは単なる「税金天国」ではなく、世界中の成功者たちが集まる社交の中心地としての機能も果たしている。高級ホテルのラウンジ、プライベートクラブ、ビジネスサロン、イベントなどを通じて、富裕層同士が自然にネットワーキングできる土壌が整っている。
また、国際会議やエキスポ、アートフェア、ファッションイベントなども頻繁に開催されており、知的・文化的刺激も受けられる点は見逃せない。これにより、ドバイにいること自体が“ブランド”となるような社会的ステータスも構築されている。
金持ち優遇の一方で格差の影
もちろん、このような金持ち優遇政策が進めば、一般市民や労働者層との格差は広がる。実際、ドバイの裏側では、多くの南アジア系労働者が低賃金でインフラや建設現場を支えている現実もある。
それでも、国家としては明確に「富裕層に選ばれる都市」を目指しており、その方向性はブレていない。UAE政府は今後も規制緩和、ビザ拡大、仮想資産の受け入れなどを進めており、「金持ち優遇」は止まる気配を見せない。
まとめ:なぜドバイは富裕層を惹きつけるのか
ドバイは、明確なビジョンと制度設計によって、世界中の富裕層を惹きつけてやまない都市となった。
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所得税・相続税ゼロという驚異の税制
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ゴールデンビザなど移住のハードルの低さ
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世界最高水準の安全性とインフラ
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成長著しい不動産市場
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富裕層向けのライフスタイルとネットワーキング
これらすべてが組み合わさり、**「金持ちがさらに豊かになれる都市」**が実現しているのだ。ドバイが今後どこまでこの富裕層優遇路線を進めるのか、そしてそれがグローバル社会にどのような波紋を広げていくのか、注目が集まる。